狂想曲
行為が終わるとパパはいつものパパに戻る。
だから私は、どんな偉人にだっておかしな性癖のひとつやふたつはあるのだし、と、自分に言い聞かす。
「痛くなかったかい?」
心底心配そうな顔をしているパパに、私は「大丈夫だよ」と言った。
パパは申し訳なさそうにしながら、私に今までより多い額の札をくれた。
それを受け取りながら、私は、体内にどろどろとしたものを感じていた。
「パパはね、大好きなものほど傷つけたくなっちゃうんだ」
「どうして?」
「だって人は、なくしたくないものにはきちんと名前を書くだろう? それと同じことだよ」
「………」
「そして自分の手垢で汚れたものほど愛着が湧いてもっと大切に思えるんだ」
昔、お人形といつも一緒だった私には、わからない話ではなかった。
そういえばあのお人形はどうなったんだっけと、私はどうでもいいことを思った。
「私はパパに愛されてるんだね」
「もちろんさ」
パパは大きく頷いた。
汚れれば汚れるほど私を愛してくれるらしいパパ。
奏ちゃんとは真逆だな、と、思った瞬間に先ほどの残像が脳裏をかすめた。
「小腹が空いたなぁ。律も一緒に昼食を食べるかい?」
「うん」
私は奏ちゃんから逃げたはずなのに。
なのに今も、ちっとも檻の中から出られたような気がしない。