狂想曲
奏ちゃんがお風呂に行ったので、私はソファでくつろぎながら、見るともなしに手首に目を落とした。
朝よりは薄くなったとはいえ、まだ少し赤くなったまま。
「……やっぱ夢なわけない、か」
未だに堂々巡りが続く。
考え続けたって答えが出るわけでもないのに、なのにやっぱり考えてしまう。
「はぁ……」
ため息を混じらせた時だった。
「律、それどうしたの?」
振り返ると、奏ちゃんが私を覗き込んでいた。
タオルを被ったままの髪からはまだ雫が垂れている。
おまけに上半身裸のままで、妹の私から見てもセクシーな人だなと思う。
「ちょっと、服着てよ!」
「じゃなくて、それ、どうしたのかって聞いてんの」
「何でもないよ」
「ふうん」
疑うような目。
奏ちゃんは不満そうな顔で煙草を咥える。
「俺にも言えないようなこと?」
「だからほんと何でもないってば。百花と遊んでた時にふざけて擦り剥いただけだし」
「どうやったらそんなとこ擦り剥くんだか」
これがカレシならとんだ世話だ。
っていうか、束縛カレシみたいな兄だと思う。
「私もお風呂行くね」
私はそそくさと逃げるように立ち上がった。
奏ちゃんの目を背中に感じながら。