狂想曲
8月になった。
私は未だに一度も奏ちゃんと暮らしていたあの部屋に帰ることなく、キョウと一緒に過ごしていた。
ずっとこのままでいいわけもないのに、なのに私はそれを望む。
キョウは珍しく電話で誰かと長話をしていた。
「だから、しつこいっつーの。行かねぇって言ってんじゃん。祭りなんて人多いし、それにみんな集まるんだったら、わざわざうざいやつに会いに行くようなもんだろ」
あぁ、そういえばもうすぐこの辺で一番大きな祭りがあるなと、横で電話の内容を盗み聞きながら思い出した。
確か数千発の花火も上がるはずだな、と。
「はぁ? 何でそうなるんだよ。それに俺はそんなに暇じゃねぇんだよ」
最後の方は「絶対行かねぇよ」を繰り返し、キョウは苛立ち紛れに電話を切った。
私はそんなキョウを見た。
「お祭り、行かないんだ?」
「行かない」
「私が一緒に行こうって言っても?」
「行かない」
キョウがうるさいのが嫌いだということは知ってるけど、でもここまでかたくなだとは。
「キョウと行きたいのに」
「俺といたら変なやつに絡まれるぞ」
「じゃあ、私友達と行こうかなぁ」
「ダメ」
「どうして?」
「危ねぇだろ」
「男の人がいればいいってこと?」
「何でそうなんの」
さすがに不貞腐れた。
私は年に一度の祭りにさえ行けないのか。
「私だって花火見に行きたいよ。キョウと行きたいんだもん」