狂想曲
睨み合い。

でも根負けしたのはキョウの方だった。



「わーかったよ。わかったから。じゃあ、ちょっと会場からは遠くなるけど、そこでいいなら」

「ほんとに?!」

「あぁ」

「屋台は?」

「人が少なくなってからならな」


キョウは「ったく」とぼやくが、私は飛び上がって喜んだ。

いつも何だかんだで私の我が儘を聞いてくれるキョウ。


その勢いのままに「やったぁ!」と飛びついたら、「甘えんな」と怒られた。



「しっかし、何でみんなしてあんなに騒がしいだけのところに行きたがるんだか」

「だって特別な一日じゃない。誕生日やクリスマスと同列だよ」

「そうかぁ?」

「そうだよ。これを逃したら人生損したって感じで」


行けるとわかれば、むくむくと張り切る気持ちが顔を出す。

キョウはそんな私を少し呆れたような目で見ていた。



「私ね、花火大好きなの」


この街に来た年の夏の、奏ちゃんと見た花火を思い出す。



あの日、まだ右も左もよくわかっていなかったこの街で、奏ちゃんは『あの花火のようにここで大輪の花を咲かそう』と私に言った。

あの言葉通り、奏ちゃんは夜の闇を背に輝く存在になったけれど。


今頃どうしているのだろうかと、ふとした時に考えている自分がいる。



「律?」


キョウの怪訝な声にはっとする。



「あ、えっと、楽しみだなぁ、って」


思わず笑って誤魔化してしまう。

私は、いつでも、どんな時でも奏ちゃんのことばかりだ。

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