狂想曲


そして迎えた、祭りの土曜。

花火大会まであと1時間と迫る頃、私とキョウは部屋を出た。


キョウ曰く「花火が見られる絶景ポイント」に連れていってくれるらしく、私は朝からずっとそわそわしていたのに、



「まだ早いだろ」

「渋滞したらどうすんのよ! っていうか、何があるかわかんないでしょ!」

「余裕で間に合うって。心配しすぎ」


相変わらず、キョウは特に楽しみにしている様子はない。

だからうだうだしている間に、こんな時間になってしまったのだけれど。


街は極端に人が少なかった。


浴衣を着ている子たちも、みんな急いで駅の方に向かっている。

やっぱり私も浴衣くらい着るべきだったかなぁ、と、今更思った。



「なぁ、俺腹減ったんだけど」


車中で気を削ぐようなキョウの台詞に、肩を落とす私。



「とりあえずコンビニ寄ろうぜ。どのみち、飲み物とかも買っとかねぇとだし」

「だね」


間に合わなかったらどうするんだと、早く目的地に向かいたい私は焦っていたが、でもこんな時に余計なことを言ってキョウと喧嘩をしたくはなかった。

私の相槌を聞いたキョウは、近くのコンビニに車を寄せる。


街の中心街から少し外れたこの場所には、ほとんど通行人さえいなかった。



「街がこんなに静かだと、ちょっと怖いね」

「俺としては、いっつもこれくらいの方がいいんだけど」

「キョウってほんとに人混み嫌いだよね」


そんなことを話しながら車を降りて、コンビニの入り口に向かって歩く。


と、その時。

コンビニから出てきた人の影に私の足が止まった。



「……律?」
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