狂想曲
「あ、もしかして、ふたりは前から知り合いだったから、一緒になって私を驚かせてやろうって魂胆? だったら私は騙されないし」

「律」


早口に言う私を制したのは、キョウだった。



「冗談でも騙してるわけでもない。今俺が言ったことは、全部本当のことだ」


それでも私は信じられなくて首を横に降った。

だってつじつまが合わないことだらけじゃない。


そんな私を見て、顔を覆った奏ちゃんを見たキョウは、鼻で笑うように言った。



「なぁ、奏。いい加減、律に言えば? 言えないなら、代わりに俺が言ってやるけど」


それでも奏ちゃんは何も言わない。

何も言う気はないとばかりに、「やめろ」と苦しそうに声を絞るだけ。


キョウはそれをまた鼻で笑った。



「川瀬は――親父は、おふくろとは家同士の結婚だったんだ。だからよそに愛人を作ってた。それが奏を産んだの本当の母親だ」

「………」

「本妻と愛人は同じ時期に妊娠した。おふくろはその時、すべてを知ったんだ。ショックだったろうなぁ」

「………」

「しかも奏の本当の母親は早産だったらしい。俺が産まれるところにも立ち会わずに、そっちにつきっきりだった。だって親父はおふくろを愛してなんかなかったんだから」

「………」

「そして俺たちは同じ日に生まれたんだ。別々のところで、別々の母親から、同じ男の血を分けて」


キョウは奏ちゃんに「なぁ?」と声を掛けるが、奏ちゃんが返事をすることはない。



「奏の本当の母親は、金と引き替えに、このことを誰にも言わないという条件と共に子供を手放した」

「………」

「そして奏は、親父の旧友である芹沢家に養子として引き取られたんだ。もちろん親父は芹沢夫婦に生活を保障するからと約束した」

「………」

「だけど、そんなの関係なく、長年子供に恵まれなかったふたりは奏を可愛がった。俺の母親は苦しさの中でどんどん心を壊していってるってのに、奏は、本妻の子である俺より幸せに暮らしてたよなぁ?」

「………」
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