狂想曲
あれから一週間が過ぎた。
あの日のことはさすがにもう考えることもほとんどなくなった。
百花から呼び出されたのはそんな時だった。
「あたし今日すんごいムカつくことあってさぁ!」
「へぇ」
「飲みに行こうよ! 付き合って!」
「やだよ。私禁酒してるって言ったじゃん」
「じゃあ、クラブ行こう! それならいいでしょ!」
「えー?」
「律はあたしがストレス溜めまくってハゲてもいいの?! 胃に穴が空いて死んでもいいっていうの?!」
「何でそうなるのよ」
と、ぐちぐち言ったものの、百花は横で騒ぎ続けている。
人の目が気になって恥ずかしい。
「わかった! わかったから、うるさいって!」
「やったー! りっちゃん大好きー」
「はいはい」
まったく、こいつは。
時々、わかっててわざとやってるんじゃないかとすら思う。
でも、私は百花にすら甘いのだろう。
「私すぐ帰るからね!」
念を押すように言ったのに、聞く耳すら持たない百花は、すでに鼻歌混じりで私の腕を引く。
駅裏の、さらに裏通り。
こっち側はガラが悪いと評判で、だからあまり来たくはなかったのだけれど。
百花は入口で男の人と少し話し、「入ろう」と満面の笑み。
相変わらず顔パスの百花。
便利と言えば便利だけれど、よくもまぁ、これだけ顔が広くなれるものだなと感心せずにはいられない。