狂想曲
刹那、キョウは奏ちゃんの胸ぐらに掴みかかる。

今まで決して表情を崩すことがなかったキョウが、初めて怒りをあらわにする。


でも奏ちゃんも、負けじとキョウに掴みかかった。



「自分を憐れむことしかできない奏が、偉そうに。お前に俺の何がわかる」

「キョウの方こそ、そうやって俺のすべてをわかってるみたいな言い方しやがって! お前こそ俺の何を知ってるっていうんだよ!」


舌打ち混じりに奏ちゃんが拳を振り上げそうになった瞬間、



「やめてよ!」


私は涙声で叫んでいた。


どうしてこんなことになっているんだろう。

どうしてこのふたりなのだろう。



「……こんなの嫌だよ」


絞り出した声が、遠く、空の向こうで打ち上がる花火の音のこだまによって掻き消された。



「奏ちゃんもキョウも、結局は私を騙してたってことでしょ! 今までの全部が嘘だったってことでしょ!」


こんなことが言いたいわけではないのに。

私と奏ちゃんが、私とキョウが、過ごしてきた時間の中にも確かに“本物”はあったはずなのに。


なのに、私は、ひとりだけ何も知らされずに生きてきたんだと思うと、悔しさもあった。



私は、私の保身の言葉を口にする。



「気持ち悪いよ、ふたり共」


盛大に打ち上げられる花火の音が、こんなところまで反響する。

私の吐き捨てた言葉は、その場にぐしゃりと落ちて、赤黒く変色した。


醜くて汚い、私自身のようだと思った。
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