狂想曲
「ねぇ、律」


奏ちゃんは横目だけを私に向け、



「俺が“優しいお兄ちゃん”じゃなくなる可能性はないの?」

「ないよ、きっと」

「そんなにキョウがいい?」

「そういうことじゃない。キョウのことは関係ないから」


もしもキョウがいなくても、私の答えは今と同じだったはずだ。

だから、私は言った。



「私たち、もう一緒には暮らせないね」

「……そうだね」


悲しみが部屋を包む。


私と奏ちゃんの間には、ひとり分の距離があった。

決して埋まることのない距離が。



私はゆっくりと体を起こす。



「キョウのところに行くの?」


寝そべったまま、こちらも見ないで問われた言葉に、私は「わからない」とだけ返した。


立ち上がる。

部屋の空気が揺れる。



「今までありがとう、奏ちゃん。兄として、大好きだったよ。だから今度会った時は、また、兄妹として接してね」


奏ちゃんは何も言わなかった。

私はそのまま部屋を出た。


きっともう、二度とここに戻ってくることはないだろうと思いながら。

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