狂想曲
「学校では浮いた存在の子だった。あまり学校に来ないし、来てもいつもひとりでいて、友達もいない。だけど、テストの成績はよくて。先生方も手を焼いていたわ」


中学生だったキョウを想像してみる。

中学受験に失敗した自分、そんな自分を折檻する父、そしてどんどん心を病んでいく母との生活。



「私の授業にもろくに出てはくれなかったから、私はなぜだろうかとすごく気にしていたわ。でも、ある日の放課後、彼が音楽室でピアノを弾いているのを見たの」

「………」

「思わず聴き惚れてしまうくらいに上手かった。だから私は声を掛けたの。『そんな才能があるなんて知らなかった』って。でも、キョウくんは何も言わずにいなくなっちゃって」

「………」

「教師という仕事に夢を見ていた私は、何だかよくわからない使命感に燃えてね。この子を見捨ててはおけない、なんて張り切っちゃって」

「………」

「それからは、キョウくんが学校に来るたびにしつこく声をかけ続けたの。『好きな曲は何?』、『いつからピアノを弾いてるの?』、『誰に習ってるの?』って」

「………」

「初めは私を無視してたキョウくんも、最後には根負けしたみたいでね。それからはぽつぽつ喋ってくれるようになって。夏休み前になる頃には、少しだけ仲よくなれた気がしたわ」


私は息苦しいと感じていた。


思い出話をするるりさんに。

そして、口を挟むわけでもなく、ただそこにいるだけのトオルさんに。



「キョウくんは私に話してくれたの。家族のこと。生い立ちのことや、腹違いの同い年の弟のこと。淡々と、感情をさらけ出すこともなく、話してくれた」

「………」

「『確かにピアノは好きだった』、『でも、大きくなるにつれて、好きだから弾いてるんじゃなくて、現実逃避のために弾いてるんだってわかった』、『そのピアノももう親父に捨てられたけどね』って」

「………」

「今まで何不自由なく普通の家庭で普通に育ってきた私にはショックな話だった。信じられなかった。こんなことが、こんな子の身に起きているなんて、って」

「………」
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