狂想曲
入って早々に、馴染みの男たちが声をかけてくる。
ほとんどが百花の知り合いで、誰が誰か把握するのも面倒になる。
百花は適当に彼らと挨拶を交わし、奥に向かう。
「ねぇ、あたしてっちんと向こうでちょっと話してくるから、律ここで待ってて」
百花は私を残してひとりでどこかに行ってしまった。
うるさすぎる重低音。
ぶっちゃけ、不快。
私はいなくなった百花を確認し、ため息混じりに壁に寄り掛かった。
自分で禁酒宣言したはいいが、だから余計につまんない。
っていうか、これ奏ちゃんにバレたらあとでまたうるさく言われるしなぁ。
そう考えると、どんどんめんどくさくなる。
「何やってんの」
重低音の中、隣から声を掛けられた。
私はさらにめんどくさくなって、怪訝な顔をそちらに向ける。
「ナンパなら勘弁してよね」
と、言った瞬間。
男の顔を見て驚いた。
その人が、あの、キョウさんとやらだったから。
目を見開いたまま制止していたのは、数秒だったのか、それとも数十秒だったのか、
「何でいるの?」
人は驚き過ぎると逆につまらないことを口にしてしまうものなのかもしれない。
言葉にした後で、素っ頓狂なことを言ってしまったなと、自分でも思った。
「あんたのそのバッグの中にGPS仕込んで、密かにスートーキングしてた」
「えぇ?!」
「ってのは、ありえないから安心しろ」