狂想曲
「キョウくんを許してあげてほしいの。私なんかが言えることじゃないけど、あの子もあの子なりに苦しんできたの」

「………」

「キョウくんは、あの頃から、ずっとあなただけを見てきたのよ」

「え?」


るりさんの言葉の意味を、私はすぐには理解できなかった。

何を言われているのかわからなかった。



「どういうことですか?」

「私はキョウくんじゃないから。だからそれは、キョウくん本人に聞くといいわ」


私はずっと、キョウはるりさんのことを想っているんだと思ってた。

けど、違うの?


はっとした瞬間、私は席を立っていた。



「すいません。私、行きます」


言うが先か、店を飛び出した。

足をもつれさせながらも走り、大通りに出て、拾ったタクシーに飛び乗って。


どうして今まで気付かなかったのだろう。



『ずっと見てるだけの人』

『何年も何年も前から、俺が一方的に想ってるだけ』

『俺じゃないやつのことしか頭にない人』


キョウはいつも私に優しかった。

そしていつも私に好きだと言ってくれていた。


それは何か企んでいるわけでも、ましてや私を騙すつもりでもなく、



『本当のこと言って傷つけたくないから。そうなるくらいなら今のままでいいやって』


私は本当に最低だ。

今更ひどい後悔に襲われる。



『俺の夢はもう全部叶ったから、だから目の前にあるものが壊れて絶望する前の、いい時のまま死にたいじゃん』

『今手の中にあるものを失うのって嫌なんだよね。いつか、真実が明るみになった時、多分俺の言葉は誰にも信じてもらえないから』


私は運転手に「急いでください」と言った。

キョウが、死ぬんじゃないかと思ったから。

< 161 / 270 >

この作品をシェア

pagetop