狂想曲
息を切らして、私はキョウの部屋のチャイムを押した。
2回、3回、と鳴らすが、反応はない。
私は手を震わせながら持っていた合鍵で鍵を開け、部屋に入った。
「キョウ……」
足元に転がっている真っ赤なおもちゃのピアノ。
月明かりに照らされただけのほの暗い部屋の中で、ソファにいる人影が動く。
「……律?」
キョウが、生きてた。
その安堵感に一気に力が抜け、私は膝からその場に崩れた。
「何でいるの」
抑揚なく問われた。
「よくあの奏が許してくれたね。もう俺なんかの前に現れることもないと思ってたけど」
「………」
「それとも、最後に何か聞きたいことでもあった?」
自嘲気味にキョウは言った。
さっきはあれほど奏ちゃんの前で余裕ぶった顔をしていたはずの、キョウが。
「俺は律を騙してたのに、どうして」
その声は震えていた。
暗闇の中、泣いているのかもしれないと思った。
私は息を飲んで、それでもキョウを見た。
「私、謝りたくて」
「謝る? 律が、俺に?」
「今までのこと。私、何も知らなかった。何も知らずに、私は、キョウを、利用してた」
「………」
「私ね、本心では、キョウのことを愛してなんてなかったの」