狂想曲
人として、という意味では、キョウのことは好きだった。

私を甘やかしてくれて、居場所をくれたキョウ。


でも、私はキョウを愛してなんていなかった。


愛したかったけど、愛せなかった。

私は、いつも、兄妹だとしか思えないはずの奏ちゃんのことばかり考えていて。



「知ってたよ、そんなの」

「……え?」

「律が俺のことなんて何とも思ってないの、初めからわかってた。けど、俺はそれでもいいと思ってたんだ」

「………」

「律が泣きたいなら泣かせてやろうって思ってたし、寂しいなら傍にいてやろう、って。“憎むべき川瀬社長の息子”の俺には、そんなことしかできなかったから」


言葉が出なかった。

私は膝をついたそのままに、こうべを垂らした。



「ごめんなさい」


キョウと一緒にいながら、体を売ることを止めず、のん気に奏ちゃんのことを相談して。

今までキョウはどんな気持ちだったろうかと思った。



「私、さっきるりさんに会って。それで、キョウのこと聞いて」

「そっか。お喋りだね、あの人」


キョウはふうっと息を吐く。

部屋の空気が揺れる。



「俺はね、ずっと奏が憎くて、そして羨ましかったんだ。あいつと俺が逆だったらっていつも考えてた。あいつの持ってるものすべて欲しかった」

「………」

「あいつが妹を――律を、一番大事に思ってるって知って、初めは奪ってやろうって思ってた。宝物みたいな妹を傷つけられたらあいつはどんな顔するのかって想像したら笑えてきて」

「………」

「だからずっと律のことも見てた。でも、何もできなかった。何もできないまま、時だけが過ぎた」

「………」

「気付いたら奏のことなんてどうでもよくなってた。奏の隣で笑ってる律を見て、どうして俺じゃないんだろう、って思うようになって。あぁ、俺は律が好きなんだな、って」

「………」
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