狂想曲
「で、まぁ、兄貴との話は置いとくとして、その時ぼく、初めてちゃんと“新しいお母さん”と話したんだよ」

「………」

「何か、謝られた。そんで、『私にも本当は子供がいてね』って、その人、話し出して。だから仕方なくそれを聞いてたんだけど、聞いてるうちに『ん?』って思い始めて」

「………」

「だからぼくね、思い切って聞いたんだよ。『もしかしてあなたのお子さんは律さんっていいませんか?』、『お兄さんは奏さんですよね?』って」

「………」

「“新しいお母さん”はすごく驚いてた。ぼくも驚いた。で、話してくれたんだ。律さんと奏さんのこと。本当は血が繋がってないってことも、全部」

「………」

「あの人、泣いてた。泣きながら、律さんに謝りたいって言ってた」

「……そん、な……」


この3年間、お母さんさえいてくれれば、と思うようなことはたくさんあった。

その度に、私は――私と奏ちゃんは、耐えてきたのに。


なのに。



「知ってて知らないふりをしてたことについては謝るよ。でも、律さんが知る必要のないことだと思ってたから」

「………」

「ぼくが黙ってればわからないことだし、余計なことを言うべきじゃないとも思ってた」


レオは、「けど」と言葉を切り、



「この前ね、律さんが泣いてた日、ぼくまた“新しいお母さん”と会ったんだ。それで、あの人に言ったの。『律さんは本当のことを知ったみたいだよ』って」

「………」

「そしたらあの人、『律に会わせて』、『どうしても律と会って話がしたい』って言って」

「………」

「ぼく、律さんにこのことを伝えるべきかすごく悩んだ。だけど、会うべきだとか、会わないべきだとか、ぼくが勝手に決めていいことじゃないと思ったんだ」

「………」

「ぼくには関係のない話だからわからない。だから、律さんが会いたくないって言うなら、ぼくはそれを向こうに伝えるだけだけど」


そしてレオはまた、「どうする?」と、最初と同じ言葉を投げてきた。


真っ直ぐな目が私を捉える。

私は堪らず顔を俯かせた。
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