狂想曲
「今更お母さんと会って、何を話せっていうの」

「でも向こうは話したいみたいだったけど」

「私は話すことなんて何もない」


私の言葉に、レオは肩をすくめ、



「逃げたところで現状は変わらないと思うけどね」


私は思わずレオを睨んだ。

でもレオは、そんなものを気にしない。



「あなたが今、前を向いていて、過去なんか関係ない、お母さんなんてどうだっていい、って思ってるなら、会う必要はないと思うよ」

「………」

「でもね、律さん、ずっとここでこうしてるじゃない。ももちゃんだって心配してるのに」

「………」

「ぼくね、思うんだけど。どこにどんな風に転ぶ結果になったとしても、ここでこのままこうしてるよりはずっといいんじゃない?」

「………」

「話したくないって思うなら、直接それを本人に言えばいい。それを言う勇気さえないなら、あなたはやっぱり過去や現実から逃げてるだけだってことさ」


レオの言葉が突き刺さる。

とんだ策士だなと、私は呆れた。



「わかったわよ。負けたわ、レオには」


レオは途端に、いつもの犬みたいな顔でへらっと笑った。

青年がまた少年に戻ったような顔。


私は息を吐く。



「お母さんに電話して、会うって伝えて」


レオは、「了解」と言った後で、「頑張ってね、“お姉ちゃん”」と、わざとらしくも私の肩を叩いた。

何だかなぁ、と、思いながら私は、叩かれた肩の痛みを感じていた。

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