狂想曲
私はまたしくしくと痛み始めたお腹を、テーブルの下でさすった。

お母さんは真っ赤な目をして顔を上げた。



「離婚する時、律だけは連れて行こうと思った。あなたは唯一、私がお腹を痛めて産んだ子だから」


ひどい言い方だと思った。

でもきっと、お母さんはそれを承知で話しているんだと思う。


母親の気持ちなんて私にはまるでわからない。



「3年前まで――奏ちゃんが19歳になるまで育てても、奏ちゃんはお母さんにとって、“可愛い我が子”じゃなかったの?」


問うた私に、お母さんは顎先だけで頷きながら、



「奏は可愛い私の息子、って、思ってたはずなのに、やっぱり心のどこかでは奏と律を分けて考えていたんだと思うわ」

「………」

「奏は成長するにつれて、何を考えているのかわからなくなっていった。いつもにこにこして、私たちを煩わせることもなく、我が儘のひとつも言わない」

「………」

「でも、自分は本当の子じゃないってわかってるあの子が、いつか何かをしでかすんじゃないかって思ったら、私は段々怖くなってきたの」

「………」

「キョウくんだってそうよ。あの子は私たち家族の秘密を知ってた。知っていながら、何も言ってこなかった。その目がすごく不気味だったことだけは今でもはっきり覚えてる」

「………」

「あのふたりは、何をどうしたって、川瀬さんの血を引いているのよ。あの、血も涙もない人の子供たちなのよ」


早口に言い切ったお母さんは、悲しそうな目で私を見た。

そして必死そうに、縋るように私に言う。



「ねぇ、律。あなたはもうあのふたりと関わらない方がいいわ」

「何それ」

「こんなことを言ったら律が怒るってわかってる。でもね、それでも私は律のことだけは心配なの」


渇いた笑いが口から漏れた。


どこまでも身勝手な人。

過去に大好きだったはずのお母さんの、これが夢でも幻でもない本当の姿。
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