狂想曲
百花は「ごめんね」、「ごめんね」と繰り返しながら、



「だって律、救急車の中であたしが奏くんに電話しようとしたら、『やめて』、『やめて』って言ってたじゃん? 覚えてない?」

「………」

「だからあたしマジでどうしようって思って、レオに電話したの! したら、レオがね、『律さんの携帯にキョウって人の番号があるはずだからそこに電話して』って言ったから!」


とんだ“弟”だなと、私は思った。

平謝りの百花は距離のある私たちを交互に見て、



「ってことで、あとはカレシさんにお任せします、みたいな」


余程、居心地が悪かったのか、そう誤魔化すように笑って、逃げるように病室を出て行ってしまった。

その姿を目で追っていたキョウは、ドアが閉まると、私の方へと歩を進めてきた。


私は、少し、身構えた。



「何か、ごめんね。百花が電話しちゃったみたいで」


言いながら、体を起こそうとする私を、「いいから寝てろ」とキョウは制す。



「電話、ビビった。でも、とりあえず安心したよ。無事でよかった」

「うん」

「何か、一泊入院で様子見て、それで大丈夫そうなら退院できるって。あとは薬もらって通院でいいらしいから」

「うん」


私たちはあまり目を合わせられなかった。

会話も、どこか距離があるようで。



「俺、いない方がいいなら帰るけど。つーか、帰った方がいいよな」


自嘲気味にキョウは言う。

だけども私は首を横に降った。



「帰らないで」
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