狂想曲
5歳くらいの頃だろうか、私はその日、公園でひとり泣いていた。
公園なのにいつも薄暗くて人が寄り付かない、近所の“お化け公園”と呼ばれていた公園で。
そこに、男の子が――キョウが、近付いてきた。
「何で泣いてるの?」
お父さんとお母さんが喧嘩してて。
お兄ちゃんはお友達の家に行ってて律ひとりだからどうしていいのかわからなくて。
みたいな感じのことを、子供ながらに泣きながら、支離滅裂に言った気がする。
「喧嘩するお父さんとお母さんなんて、嫌い」
彼はそれを聞き、少し考えるような素振りを見せた後、
「ちょっとここで待ってて」
と、私に言い残し、走ってどこかに行ってしまった。
それからどれくらい待ったかは覚えていない。
でも戻ってきた彼の手には人形があった。
「これ、あげる」
息を切らしながら、それが差し出される。
「えっとね、それに悲しいことを話したら、悲しいことを吸い込んでくれるんだって。だから、それあげる」
「……いいの?」
「ぼくはね、悲しい話はピアノに聞いてもらうんだ。ピアノとお喋りできるからいいの」
子供同士の説明は曖昧で。
でも子供同士だからこそ、シンパシーのようなもので伝わって。
私は涙を拭いながら「ありがとう」と言ってそれを受け取った。