狂想曲
キョウも記憶の糸を辿るように、ふうっ、と息を吐いた。
私はそんなキョウを見た。
「私、あの時の男の子に――キョウに、また会いたかった。こんな形じゃなく、あの公園で、また会いたかったのに」
「あの後すぐ、律が奏の妹だって知った。だから会えるわけがないと思った」
私の手を握るキョウの手が、震えていた。
キョウは悔しそうに「ごめんな」と声を絞る。
「あのまま、何も知らないままでずっといられてたら、って、いつも思ってた。そしたら“今”が変わってたんじゃないかって」
「………」
「せめて何かひとつでも違ってたら、俺は――俺たちは、こんな風じゃなかったかもしれないのに、って」
ひとつ後悔があれは、それはやがてすべてに派生する。
キョウの気持ちが痛いほどに伝わって。
私は僅かに震える息を吐いた。
「ねぇ、キョウ。私たち、“あの日”からやり直そうよ」
前に進むために。
何より、百花が言ったように、私もキョウとの未来に賭けてみようと思った。
『それでもダメだったら仕方ないけど、その時間は無駄じゃないじゃん?』と、百花が言った通りだと思う。
「そうじゃなきゃ、私たちはずっと後悔を抱えて生きていくことになる」
「俺は“川瀬の息子”だよ。それに、奏じゃなくて、どうして俺?」
「もう、あの人形も、ピアノもないけど、私は本当のキョウを知りたいの。話して聞かせてほしいの」
キョウは私の手を両手で握り、それをひたいにつけた。
泣いていたんだと思う。
でも、私も泣いていたから、笑ってあげることはできなかった。