狂想曲
嘔吐
翌日、点滴と投薬のおかげか、白血球の数値が少し戻ったので、私は退院した。
その間ずっと、キョウは私の傍にいてくれた。
それから2週間ほどは、薬を飲み続け、何度か通院もした。
キョウは度々「お腹が痛い」と言う私を気遣い、夜中(よるじゅう)、寝ないで看病してくれた日もあった。
私はキョウの優しさを、身をもって知った。
そして8月が終わった。
「律さん、回復おめでとう」
どこまでものん気なレオは、笑いながら昼下がりのカフェテリアでココアのカップを持ち上げる。
私は喜ぶべきかもわからず肩をすくめて見せた。
「ほんとに死ぬほど痛かったのに、他人事だと思って」
「しょうがないじゃない。ぼくは虫垂炎なんてなったことないんだから、実際、他人事だとしか思えないんだもん」
「嘘でも少しは心配してよね」
「してたよ。律さんは仮にもぼくの“お姉ちゃん”なんだから、心配してたに決まってるじゃない」
レオは前のめりになった。
「でもさ、災い転じて福となすっていうか、怪我の功名っていうか、そういうのもあったんじゃない?」
本当に、嫌になるような“弟”だなと、私は思った。
レオはまたクスリと笑う。
「ねぇ、教えてよ、律さん」
私は近付いてきたレオの顔を押し返し、
「それより私の方が聞きたいわよ」
「うん?」
「百花と付き合ってること。しかも、レオから告白したって聞いたけど」
レオは「あぁ」と思い出したように言って、またココアのカップを傾ける。
聞かれたところで余裕しゃくしゃくといった風。