狂想曲
キョウの家に帰ると、ソファでくつろいでいたらしいキョウは私に気付き、「おかえり」と言った。
「寝てろって言ったのに、出歩きやがって」
「ちょっと友達に会ってただけだよ。今日はわりと調子いいし」
「油断すんな」
「ほんともう大丈夫だってば。だから、ほら、晩ご飯の材料も買ってきたし」
本当に、私はすっかり回復していた。
だから久しぶりに晩ご飯を作ろうと張り切る私を見たキョウは、まだ何か言いたげな顔をしていたが、でも諦めたようにもう何も言わなかった。
私は腕まくりしてキッチンに立つ。
「私ね、これからは色々とちゃんとしようと思って、さっき求人情報誌も買ってきたんだ」
「そんなにいきなり全部やろうとすんなよ」
「いいの。私が、私のためにやりたいの」
キョウはキッチンのカウンター越しに立ち、頬杖をついて、
「俺といるから無理してんじゃないの?」
私は驚いて顔を上げた。
キョウの瞳は、少し、寂しげだった。
「何でそうなるのよ」
だから私は笑って受け流す。
キョウはあれから、一度たりとも奏ちゃんことには触れない。
まるでそれは私たちの間のタブーであるかのように、何も言わない。
これでいいのかなんてわからない、けれど今はこうしながら、時間が解決してくれることもあるはずだと言い聞かせる。
いつか、私は――私たちは、奏ちゃんと普通に向き合える日がくるのだろうか。