狂想曲
だからといって、あまり吐いている姿をキョウに見せたくはなかった。

私は知恵を絞り、食後にコンビニに行くふりをして公園のトイレで吐いたり、キョウがお風呂に入っている隙に吐くようにしていた。



「何かちょっと痩せたか?」


ある日、キョウにそう聞かれてぎくりとしたが、でも私は「ダイエット中なの」と笑って答えた。

キョウはそれ以上、何も言わなかった。



「バイト、早く見つかるといいな」


キョウの言葉に私は頷いて見せる。




私が再びここで暮らすようになってから、キョウは一度も私に触れてはこない。


病み上がりだったからというのもあるのだろうけど、眠る前に軽くキスをする程度で、一緒に眠っていても、何もされることはない。

だけど、何もされないことほど私を混乱させ、困惑させることはない。



今まで、性を売ることを生業(なりわい)にしていた私には、それ以外の愛情の計り方なんてわからないから。



どうしてキョウは私に触れようともしないの?

じゃあ私たちのこの関係は、一体何?


やっぱり奏ちゃんとのこと、気にしてるの?




答えの見えない疑問符が浮かぶ度、私は自問自答する思考を振り払いたくてトイレにこもり、口内に指を突っ込んだ。




いつしか私の手には吐きダコができていた。

それに気付いた時、これはさすがにまずいと思い、水を一気飲みするようにした。


一気に飲んで、水と一緒に一気に吐き出す。



吐くことをやめなければという考えにはならなかった。
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