狂想曲
「それよりさぁ、仕事全然決まんなくて。やっぱ最終学歴が中卒ってダメだね。もう考えるだけで頭痛いよ」

「………」

「嫌だよねぇ。私だって別に、好きで高校辞めたわけじゃないのにさぁ」

「………」

「っていうか、高校の頃の友達、今何してんのかなぁ。大学生とか? 羨ましいよねぇ、そういうの」


と、わざと話を変えるために選んだ話題で、早口に言ってしまった後に墓穴を掘ったと気がついた。

これじゃあまるで、私の仕事が決まらないのがキョウの所為みたいだ。


高校を辞めることになったのも、その所為で私の最終学歴が中卒なのも、たとえ私の友達が今は大学生をしていようとも、それはキョウが悪いわけじゃないのに。



「……ごめんな」


言おうとしたら、先に言われた。

だから私は言葉が出なくなる。


本当は、奨学金制度だってあったのに、それでも辞めることを選んだのは私なのに。



「ごめん、ほんと」


キョウは辛そうな顔をする。



もしもキョウがピアノに逃げずに勉強していたら、川瀬社長は奏ちゃんを呼び戻そうとはしなかったかもしれない。

そしたら私たち家族は壊れなかったかもしれない。


そんな、“もしも”が、私たちを苦しめる。



そしていつもそこで奏ちゃんのことを思い出す。



「私、余計なこと言っちゃったよね。ごめんね」


だけど、言えないから。

その“もしも”に、意味なんてないことはわかってるから。



「ご飯、作るね」


私は立ち上がった。

吐きたいという衝動が顔に出る前に、キョウに背を向けた。

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