狂想曲
とにかく頑張っていたかった。

頑張らなければダメなんだと思った。


何をどうとかじゃなく、頑張ることだけが使命感のようになっていて、そうじゃなきゃいけないという強迫観念さえあった。


でも、仕事が決まらない中で、こんなことでどうするんだと自分を叱責してしまって。

きっとまだ頑張りが足りないからだと自分を叱咤した。



私はそうやって自分の世界の中だけでぐるぐるまわりながら、より深みにはまっていった。



「律、何やってんの」


以前買った料理のレシピ本を、穴が開くほど眺めていたら、キョウに声を掛けられた。



「これさ、ちょっと難しそうだけど、頑張って作ってみようかと思って」

「ふうん」

「私さぁ、頑張って料理上手になりたいんだよね。今はやる気で燃えてる感じ」


キョウは「そっか」としか言わず、私の頭を撫でた。

そして軽くキスをしてくるだけ。


ふわりとぬくもりが離れて、



「俺これからまた出掛けなきゃだから、あんま無理すんなよ」


相変わらず、キョウは私を抱こうとはしない。


どれだけ頑張っていても、私が仕事すら決まらないダメな人間だから悪いんだろうか。

仕事が決まったら、キョウはまた私を抱くようになってくれるだろうか。



ぐるぐるぐるぐる、そんなくだらないことが次々に頭の中に湧き上がってきて。



「いってらっしゃい」


でも、言えないまま、私はキョウを送り出した。


無意識に、トイレに足が向く。

私は考えるより先にうずくまって嘔吐した。

< 196 / 270 >

この作品をシェア

pagetop