狂想曲
「なぁ、それよりこいつ可愛くね?」

「やめろって! 余計なことすんなって言ってんだろ!」


ここがラブホテルであろうことくらいしかわからないけれど、どこのかなんてもちろんわからないし、手は縛られてるし、4人の男たちを前に、逃げおおせるはずはない。


だからとりあえず、抵抗せずに大人しくしてようと思った。

もちろん体が動かないからというのもあるけれど、でもこいつらは、私が何もしなければ間合いさえ詰めてくる気配はないから。



「キョウさん、いつ来るんだよ? 俺ほんとはこんなことしたくねぇし、早く帰りてぇよ」

「しょうがねぇだろ! キョウさんには逆らわずに従っとく方が懸命だって!」

「けどさぁ」

「けどもクソもねぇだろ! 下手なこと言ってたらマジでキョウさんに殺されるぞ!」


キョウさん、キョウさん、キョウさん、キョウさん。

こいつらは馬鹿のひとつ覚えみたいにその名を繰り返しながら、おどおどしていた。


主犯格なのか何なのか、それほどまでに恐れるとはよっぽどだ。



そのキョウさんとやらが来た時、私はどうなるのだろうか。



「とにかく俺らは言われたことやったんだから、キョウさんに引き渡せば終わるだろ!」


刹那、コンコン、とドアをノックする音が響いた。

男たちのうちのひとりが「キョウさんだ!」と言った瞬間、部屋に緊張が走った。


彼らは顔を見合わせ、何かを決意するように頷くと、迷彩のパンツを穿いている男がドアに向かう。



「キョウさん。例の女、奥にいますんで」

「そうか。手間かけさせたな」


入口から聞こえてくる話し声。

死角になっているためここからは見えないが、でも私は諦めて息を吐いた。


ひどい頭痛の所為で、逃げようという気力さえも生まれない。
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