狂想曲
無聊
朝起きると、今しがた帰宅したらしい奏ちゃんとリビングで遭遇した。
「おはよ。っていうか、おかえり」
「ただいま。律、珍しく早起きじゃん。どしたの?」
「あんまり眠れなくてね」
奏ちゃんは、「ふうん」と言いながら、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。
「何か悩みでもあるの?」
「そういうんじゃないけど、色々あって」
言葉を濁しながら、私は、ソファに腰を下ろす。
奏ちゃんはそんな私の前に立ち、
「これ、今月の生活費ね」
と、茶封筒を差し出した。
相変わらず、中を確認しなくてもわかる分厚さだ。
「こんなにいらないって私いつも言ってんじゃん」
「………」
「あのねぇ、私だってバイトくらいしてんだから、折半か、せめて食費くらい出させてよ」
「別に律の金なんかアテにしてないって」
「けど、私、奏ちゃんにおんぶに抱っこみたいなのは嫌なの!」
「俺がそれでいいって言ってんだから、律が負い目に感じることはない」
そして奏ちゃんは私に、茶封筒を押しつけた。
いつもこうだ。
奏ちゃんは、何なら私がバイトすらする必要はないと言う。
兄である以前に親代わりだからってなぜここまでするのかはわからないけれど、でも今日も話は平行線のまま。
「奏ちゃんは何にもわかってない」
私の呟きは聞き入れてはもらえなかった。
奏ちゃんは険しい顔で息を吐く。