狂想曲
吐き捨てるように言った。



「おかしいこと言ってるのはキョウの方じゃん!」


キョウは私の言葉に何か言いたげに、でもそれを押し殺すような表情で、拳を作る。

そして顔を伏せ、



「律がそうなった原因って何?」

「原因も何も、私は」

「奏のこと気にしてるから?」


あれから初めて、キョウの口から奏ちゃんの名前を聞いた。

皮肉にも、こんな時に。



「どうしてここで奏ちゃんの話になるの? 奏ちゃんのこと気にしてんのはキョウの方じゃないの?」


言いたくないのに、怒りに任せて言ってしまった。



「私のこと抱かないのだって奏ちゃんのことがあるから? だから抱きたくない?」

「何わけわかんないこと言ってんだよ。あれだけ『痛い』、『痛い』って言ってる姿見て、無理やりできるわけねぇだろ!」

「………」

「俺だってヤリてぇよ! でも律のこと考えてるからだろ! ヤレばもう二度と吐かないって言うなら、いくらでもヤッてやるよ!」

「じゃあ何で今、奏ちゃんの名前が出てくるのよ!」


私はわめき散らす。


キョウはぐっと唇を噛み締めた。

そして私から目を逸らし、



「ほんと、おかしいよ。話にもならねぇ。頼むからいい加減にしてくれよ」


うんざりしたような顔だった。

でも私はその顔を見て、カッと頭に血がのぼった。



「わかったよ。頭冷やせばいいんでしょ」


言うが先か、私は部屋を飛び出した。

ガッ、と、背後でまた壁を殴る音が聞こえたが、私は振り返ることすらしなかった。

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