狂想曲
「いやぁ、可愛い子がいたから声掛けたんだよ」

「ありえなーい!」


また、彼らはギャハハハと私を取り囲んで大声を出す。

どうやって逃げようかと思った瞬間、



「あれ? この子、俺どっかで見たことあるんだけど」

「はぁ?」

「マジで、マジで。どこだっけなぁ?」


うつむかせている顔を覗き込まれ、私がいよいよ声を上げようとした時だった。



「あ! 思い出した! この子、前にキョウさんと一緒に飯屋にいた子だわ!」

「え?」


反応したのは、その中にいた背の高い女だった。

男たちを押し退け、彼女は怪訝な顔で私の前に立つ。



「ねぇ、あんた、それマジな話?」


私に向かって問われたのに、「マジだって!」と答えたのは、先ほどの男。

女は舌打ち混じりに私の肩口を掴む。



「あんた、キョウさんの何? まさか、カノジョだとか言わないよね?」


私は“キョウのカノジョ”なのだろうか。

確かに一緒には暮らしてるけど、でももう、どんな関係なのかわからない。


何も答えずにうつむいたままの私に、女は次第にイラついたような表情になる。



「冗談きついんだけど! このブスが? 何かの間違いじゃないの?」

「ミカ、やめろって。絡むなよ」

「しょうがねぇよ。ミカはキョウさんのこと狙ってたのに、相手にされなくて、誰かに八つ当たりしたいだけなんだから」

「うるさいわねぇ!」


彼らは口々に言い合っていた。

私の肩口を掴む女の手の力が、どんどん強くなっていく。


私は何も言わなかった。
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