狂想曲
こういうことには慣れていた。

奏ちゃんの妹だというだけで、いわれのない誤解の末に罵詈雑言を浴びせられたことだって何度かあったのだから。


どうせ何を言っても相手を怒らせるだけなのだから、だから私は勝手にしてくれという気持ちだった。



「ちょっとあんた、何か言ったらどうなのよ!」


だけど、相手はそれで許してなんてくれるはずもなくて。

今度はぐいと髪を引っ張られた。


さすがの私も苦悶の表情になる。



「おい、ミカ! ちょっとやりすぎだって!」

「そうだよ。この子、ただキョウさんと飯食ってただけで、別にカノジョとは限らねぇじゃん」

「だよな? どうせキョウさんの知り合いとかだろ? そしたら俺らやばいって」

「ほら、お前、飲み過ぎだから!」


男たちが彼女を制しようとする。

だけど、それが逆に火に油を注ぐ結果になったらしい。



「うるさいって言ってるでしょ!」


女はヒステリックにわめき散らした。



「あたしはずっとキョウさんたちのグループにいたのに、名前すら覚えてもらってなかったのよ! ご飯だって食べに行ったことすらない!」

「………」

「だけど、キョウさんは誰に対してもそうだった! だから今までは許せてた!」

「………」

「なのに、何でなのよ! 何でこんなわけわかんないブスならいいのよ! こんなのおかしいじゃない! あたしの何がいけないって言うの?!」


酒の力があるのか、彼女は私を揺すりながら泣いていた。

後ろの男たちはそれを茫然と見つめながら、少し呆れたような顔をしていた。


もうこの人を止めてもくれないらしい。
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