狂想曲
泣き叫ぶ彼女を見ていると、真っ黒い何かが沸々と湧き上がってくる。



「じゃあ、あなたが私の立場になればいいじゃない」


私とキョウが過去に何もなくて、ただ単純に出会っただけだったら、こんなに苦しまなくてもよかったはずだ。

そうだったとしたら、どんなに楽だったか。


だから皮肉混じりに言ってしまう。



「何にも知らないくせに! 私とキョウのこと何にも知らないくせに!」


タガが外れた後は、もう勢いのままだった。

私は女を掴み返し、揉み合いのような状態になる。


「ブス」とか「死ね」とか、そんな言葉を浴びせられながらも、私も抵抗するように女の服を引っ張った。



「やめろ!」


私は男たちに無理やり彼女から引き剥がされた。

彼女もまた男たちによってはがい締めにされ、互いに、少し離れた位置で、肩で息をしながら唇を噛み締める。



「マジでいい加減にしろよ! ミカもだけど、あんたもだよ! 頭おかしいんじゃねぇの?!」


男のうちのひとりが言った言葉は、私に突き刺さった。


キョウが言ったことと同じ。

おかしいのは、やっぱり私の方なのか。



思わず、ふっ、と自嘲気味な笑みが口から零れ、そんな私を見た男たちの顔が引き攣った。



「おい、行こうぜ。この女、気持ち悪いよ」

「あぁ。どのみちこれキョウさんにばれてもマズイしな」

「行くぞ、ミカ!」

「ちょっと、離してよ!」


ミカと呼ばれた彼女はまた暴れながら私に向かって何か暴言を吐いていたが、数人の男たちに引きずられていった。


再び静けさを取り戻した公園で、私は乾いた笑いを浮かべながら、その場にへなへなと崩れた。

そしてひとり、私は声を上げて泣いた。

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