狂想曲


起きた時にはお昼だった。

私はベッドにいて、キョウに抱き締められていた。


泣き過ぎて瞼は腫れぼったくなっていて、声も涸れていたけれど、こんなに眠ったのは久しぶりで、何だか憑きものが取れたような気分だった。


それから、私が「お腹が空いた」と言ったら、キョウがうどんを湯がいてくれた。

薬味すらない素うどんだったけど、食べた後、久しぶりに吐き気をもよおすことはなかった。



「なぁ、どっか行くか」


キョウがそう言ったのは突然だった。



「どっかって、どこ?」

「わかんないけど。ほら、俺ら、祭りにも行けなかったし、出歩くって言っても飯食いに行く程度じゃん? だから、たまにはどっか一緒に行くかなぁ、って」


キョウは昨日のことには一言も触れなかった。

奏ちゃんのことすら話題には出さない。


私は少し考え、「そうだね」と返したら、キョウはパソコンで行楽地を検索し始めた。


本気だったのか、と、今更思いながらも、だったら準備くらいしなくちゃと、私は着替えるために寝室に戻った。

着替えながら、鏡の前で改めて自分の姿を見てみると、本当にガリガリで、どうして今まで気付かなかったのかとすら思い、驚いた。



「いいとこ見つけた?」


リビングに戻り、未だパソコンの前で難しい顔したキョウを覗き込む。



「微妙。この時期だと、紅葉がどうとかいうのしかねぇな。もういっそ、泊まりで温泉にでも行くか?」

「んー。ちょっと、私に探させて」


私はキョウの手からマウスを奪った。

キョウは「こら」と制すが、その拍子にブックマークのボタンがクリックされてしまったらしい。


見るともなしにそれを見ると、車関係のサイトや何かに混じって、下の方に見慣れないサイト名が。
< 208 / 270 >

この作品をシェア

pagetop