狂想曲
「律がバイトして稼いだ金は、律のものだ。だから大事に貯金しときな」


奏ちゃんは私の横へと腰を下ろした。



「母さんが出て行ったのも、父さんが死んだのも、その所為で俺たちが学校を辞める羽目になったのも、すべては金がなかったからだ」

「………」

「金さえあれば、俺たちは今こんなことしてなかったんだから」


もう何度、奏ちゃんのこの台詞を聞いただろう。

その度に私は、やるせない気持ちにさせられる。


でもね、私は、本当はお母さんもお父さんも恨んでないよ。



「俺たち家族が壊れたのは、貧乏だったのが悪かったんだ。そうだろ?」


当時、うちはしがない町工場を経営してたけど、貧乏でもそれなりに幸せに暮らしていた。

けれど、この不況で、上の会社から急に取り引き停止を言い渡されて、お父さんの工場は閉鎖した。


残ったのは多額の借金だけ。


お母さんはそんな生活に耐え切れなくなり、男を作って家族を捨てて逃げ出した。

そしてすべてを失ったお父さんは自殺した。



私と奏ちゃんを置き去りにしたまま。



「母さんも父さんも弱かったんだ。だからそれぞれの方法で逃げた。結局は金に負けたんだよ」

「………」

「でも、俺は違う。そうはなりたくない」


奏ちゃんは強い瞳で言った。



「勝って、見返してやるんだ。世間を」


それが奏ちゃんの望み。

だから私は、奏ちゃんのために、いつもそれに同意してあげる。


奏ちゃんがそんな道しか選べないのだとしても、世界中で私だけは、味方でいてあげたかったから。
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