狂想曲
「え?」


驚いて、顔を向ける。

でもキョウは私の方を見ない。


次第に傾き始めた西日が、オレンジの色をしてキョウの顔を染めていた。



「奏と、会えよ」


今度の言葉は疑問形じゃなくなっていた。

キョウは私の方を見ないまま、その場にしゃがみ込み、



「奏もさ、多分、もう一回ちゃんと律と会って話したいと思うんだよ」

「………」

「まぁ、俺としても正直複雑なんだけど。でもさ、奏を恐ろしい人間のように思って避けようとすんの、間違ってると思うんだよね」

「………」

「っていうか、きっと、それが俺らのためでもあると思うし。律だって頭ではもうわかってるだろ?」


私もキョウと同じようにその場にしゃがむ。

そして顎先だけで小さく頷いて見せた。


やっと私の方へと顔を向けたキョウは、やっぱり少し悲しそうな顔をしていて。



「俺さ、よくわかった。身に沁みたっつーか。やっぱ、どんなに頑張ったって俺らは公園で初めて会ったあの日からやり直せるわけないんだよ」

「………」

「今までのことをすべて白紙に戻して、過去を追えるわけなんてないんだってこと。過去があるから今があるって言葉の通り」

「………」

「俺と律は、結局は、奏なしじゃダメなんだよな」


最後の方は自分に言い聞かせるように、キョウは噛み締めるように言った。


私はキョウの服の裾を引っ張る。

キョウはそんな私の頭を優しく撫でながら、



「俺、律のことすげぇ好きなのにさ。それだけじゃどうにもならないことがあるって、悔しいな」


私は何も言えなかった。

泣きながら、首を横に降ることが精一杯だった。
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