狂想曲
気が急いて、少し早めに部屋を出た。
だけど、キョウがお店の場所をメールで詳しく送ってくれたから、迷うことなく、15分も早く到着してしまった。
お店の前で一度、大きく深呼吸をして、ドアを開けた。
「おー。いらっしゃーい」
カウンターの中にはトオルさんだけ。
他にお客もいない。
私が委縮していると、トオルさんは奥まったボックス席を顎で指しながら、
「そこ座ってな。キョウももうすぐ来ると思うから」
「……あの」
「あぁ、俺のことは気にしなくていいよ。つーか、キョウから色々と聞いたけど、りっちゃんも大変だねぇ」
同情というわけではなさそうだが、私はなんとも言えず、曖昧に笑って席に腰を下ろした。
クラシック曲が流れていた。
でも私にはそのタイトルはわからない。
少し待っていると、ドアが開いて、キョウがやってきた。
「早いな」
そして私を見て笑う。
3日ぶりの再会なのに。
あれ以来なのに、なのに電話の時と同じように、キョウはいつも通りだった。
でも、それが逆に私の緊張を少しほぐしてくれる。
「じゃあ、俺は邪魔しねぇように消えるとするが、くれぐれも店のもん壊したりすんなよ、キョウ。高くつくぞ」
「わかってますって。つーか、トオルさんが言ったらシャレになってないし」
トオルさんは「シャレじゃねぇからな」と念を押すように言って、裏口へときびすを返す。
キョウとふたりっきりになると、無言の沈黙が訪れてしまい、私はまた思い出したように緊張した。