狂想曲
だけど、キョウだって緊張していないはずはない。


私の向かいに座って待つ間、物憂い顔で彼方を見つめながら、つけては消しての煙草が、灰皿に溜まっていた。

間が持たなくて何か喋ろうとも思ったが、でもこれといった話題も見つけられないままで。



1分が何時間にも感じ始めてきた頃、再びお店のドアが開いた。



「遅ぇよ、奏」

「うるさい」


ふたりは開口一番に毒づき合う。

でも、だからってあの日みたいな険悪な空気はない。


奏ちゃんの目が、私へと移される。



「久しぶりだね、律」

「……うん」

「何か、病気になってどうとか聞いたけど、大丈夫?」

「うん。もう大丈夫」


会話は少しぎこちなかった。

でも思ってたよりちゃんと話せた自分にほっと胸を撫で下ろす。


キョウはおもむろに席を立った。



「昨日も言った通り、きっちり30分だけだ。それ以上は1秒も許さない」

「ったく、器が小さいねぇ」

「あ?」

「ほら、すぐそうやって顔に出る。だから嫌なんだよ、キョウは。俺はお前と違って馬鹿じゃないから、何度も言われなくてもわかるんだよ」


まるで毒舌王子様。

奏ちゃんはもうその口の悪さを隠そうともせず、逆に開き直っているみたいだった。


キョウはあからさまに舌打ちを吐き捨て、最後に「変なことしたら殺すぞ」と言い残し、お店を出て行ってしまう。


奏ちゃんとふたりっきりにされ、私はまさかのことに動揺した。

奏ちゃんは、今までキョウが座っていたところに、入れ替わるように腰を下ろす。
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