狂想曲
「俺は父さんみたいにお人よしにはならない。だから信じられるのは律だけだ」

「………」

「律がいてくれたから俺は今までを生きてこられたんだから。俺には律がいればそれでいい」


奏ちゃんの意志はかたくなだ。

でも、やっぱり私はそれを否定することはできないから。


苦しげなその瞳を見据えた。



「そうだね、奏ちゃん。一緒に頑張ろうね」


私はいつも同じ言葉を返す。

奏ちゃんは満足そうに強く頷いた。


奏ちゃんの檻の中で、奏ちゃんが喜ぶ言葉ばかり並べ、奏ちゃんの理想通りの妹を演じる。



「律はいい子だね」


奏ちゃんは私の頭を撫でた。

頭を撫でられながら、もし奏ちゃんが“本当の私”を知ったらどうなるだろうかと思った。


私の秘密なんか知る由もない、奏ちゃんが。



「いい子だし、可愛いから、律のこと他のやつに取られちゃったらどうしようって」

「取られるって何よ。カレシみたいなこと言っちゃって」


奏ちゃんは笑っていた。

ひどく優しい顔で、笑っていた。


時々それが怖く見えることもあるけれど。



「ほら、奏ちゃん、それより早くシャワー浴びて寝なよ。目の下にクマできてる」

「マジで? イケメンが台無しになったら困る」

「自分で言うな」


奏ちゃんは立ち上がった。

私は小さくほっと安堵してしまう。


奏ちゃんといると、どうしてだか息苦しくて。

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