狂想曲
店内には私たちだけ。
閉店しているわけでもないのに誰もこないどころか、なぜか店の前さえ人が通らない。
静かに流れるクラシック曲は、話題にできるほどでもなくて。
「ほんと、久しぶりだよね」
先に言葉を手繰り寄せたのは奏ちゃんだった。
でも、奏ちゃんは、私から僅かに視線を下げた場所を見ている。
私たちは目を合わせられなかった。
奏ちゃんは、キョウと同じ煙草に火をつけながら、
「昨日、キョウが突然現れてさ。『話がある』とか言って。正直、俺は内心、気が気じゃなかったんだけど」
「………」
「で、何なのかと思えば、『律と会えよ』とか言い出してさ。今度は何を企んでんのかと思えば、『律も会いたがってる』とか言うし?」
「………」
「そんなわけないだろ、こんな罠にはまるほど俺は馬鹿じゃない、とかひとりで思ってたら、キョウがいきなり、『もうやめない?』って」
「………」
「『俺たちがいがみ合ったところで何にもならない』、『それで一番悲しむのは律だ』、『だからもうやめよう』って、説教かよ、っての」
奏ちゃんは思い出したように小さく笑う。
「キョウと、それからちょっと話したんだけど。って言っても、10分くらいだけど。あいつとあんなに、しかも普通に話したの、初めてだった」
「………」
「何かさ、ムカつくよね。話してるうちに、あぁ、ほんとに俺とこいつは兄弟なんだなぁ、って思えてくるんだもん。やっぱ似てんの。認めたくないけど」
「………」
「それでさ、あいつはまたいきなり『律と会え』って言って、時間と場所だけ一方的に言うの。しかも道順の説明はすんごい適当で。で、人の返事も聞かずにいなくなるんだもん」
「………」
「どうしたもんかなぁ、と思いながら、でもやっぱり来てみたら、ほんとに律がいるじゃん? だから俺、実は今もかなりテンパってんだけど」
閉店しているわけでもないのに誰もこないどころか、なぜか店の前さえ人が通らない。
静かに流れるクラシック曲は、話題にできるほどでもなくて。
「ほんと、久しぶりだよね」
先に言葉を手繰り寄せたのは奏ちゃんだった。
でも、奏ちゃんは、私から僅かに視線を下げた場所を見ている。
私たちは目を合わせられなかった。
奏ちゃんは、キョウと同じ煙草に火をつけながら、
「昨日、キョウが突然現れてさ。『話がある』とか言って。正直、俺は内心、気が気じゃなかったんだけど」
「………」
「で、何なのかと思えば、『律と会えよ』とか言い出してさ。今度は何を企んでんのかと思えば、『律も会いたがってる』とか言うし?」
「………」
「そんなわけないだろ、こんな罠にはまるほど俺は馬鹿じゃない、とかひとりで思ってたら、キョウがいきなり、『もうやめない?』って」
「………」
「『俺たちがいがみ合ったところで何にもならない』、『それで一番悲しむのは律だ』、『だからもうやめよう』って、説教かよ、っての」
奏ちゃんは思い出したように小さく笑う。
「キョウと、それからちょっと話したんだけど。って言っても、10分くらいだけど。あいつとあんなに、しかも普通に話したの、初めてだった」
「………」
「何かさ、ムカつくよね。話してるうちに、あぁ、ほんとに俺とこいつは兄弟なんだなぁ、って思えてくるんだもん。やっぱ似てんの。認めたくないけど」
「………」
「それでさ、あいつはまたいきなり『律と会え』って言って、時間と場所だけ一方的に言うの。しかも道順の説明はすんごい適当で。で、人の返事も聞かずにいなくなるんだもん」
「………」
「どうしたもんかなぁ、と思いながら、でもやっぱり来てみたら、ほんとに律がいるじゃん? だから俺、実は今もかなりテンパってんだけど」