狂想曲
そこで初めて目が合った。

私はやっぱり曖昧な笑みしか返せないのだけれど。



「私もね、奏ちゃんと会ったら何を話そうかって随分考えたけど、でもいざこうして会ってみると、そんなの全部吹っ飛んじゃって」

「うん」

「だけどね、会わなきゃよかったとは思わない。会えて、こうして話せてよかったと思ってる」

「俺もだよ」


言いながら、奏ちゃんは目頭を押さえた。

まるで涙を堪えるように、だけど僅かにその肩は揺れていて。



「俺はね、もう律に嫌われてるんだと思ってた。俺は律にそれだけのことをしたんだもんね。だからそれは当然の報いだと思って、覚悟を決めてたっていうかさ」

「………」

「キョウから、律が俺に会いたがってるって聞かされた時も、きっと律は俺のことを罵倒したいんだろうなって」

「………」

「だけど、実際会ってみたら、そうじゃなかった。それだけでもほんと救われた気持ちで」


泣きそうな顔を上げた奏ちゃんに、私は、



「だって、たとえ血が繋がってなくたって、やっぱり奏ちゃんは私の“兄”だもん。今まで過ごしてきた過去は確かなもので、ちゃんと私の中にあって」

「………」

「本当のことを言うと、奏ちゃんのことを嫌いなろうと思ったこともあったの。だけど、できなかった。どんな奏ちゃんを知ったとしても、私の中では奏ちゃんは奏ちゃんだし」

「……律」


奏ちゃんの瞳の淵には、堪え切れなくなったものが溜まっていた。

私は泣かないように、そんな奏ちゃんをちゃんと見た。



「でも、ごめんね。私は奏ちゃんを愛せない」

「うん」

「愛せないけど、だけどね、あの頃も、今も、やっぱり私だけは、奏ちゃんの味方でいてあげたいと思ってる気持ちに変わりはないの」

「十分だよ」


泣き笑い顔。

奏ちゃんのそんな顔を、私は初めて見た。
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