狂想曲
ふうっ、と息を吐いた奏ちゃんは、少し気が楽になったのか、煙草を取り出し火をつけながら、



「キョウとは、順調?」


だけどその問いに、私はかぶりを振る。

奏ちゃんは、今度は少し驚いた顔になった。


私も息を吐き、椅子の背もたれに身を預ける。



「キョウはね、すごく優しいんだよ。私のこと、本当に大切にしてくれるの。だけど、何がダメなのかな」

「………」

「私もキョウが好きなはずなのにね、愛してあげられないの。いつもきっと、私の所為でキョウは、陰で苦しんでるんだと思う」

「………」

「だからもう解放してあげなきゃいけいのにね。それなのに私は、別れようっていう一言さえ言ってあげられない」


奏ちゃんは私の言葉に耳を傾けながら、彼方に目をやり、



「あいつはそれでも律といたいんじゃないの?」

「……え?」

「本当に無理だと思ったら、キョウはちゃんとそう言うはずだよ。でも言わないってことは、まだ望みを持ってるからなんじゃない?」

「………」

「俺と会うことで律の中に変化が芽生えたら、何かが変わっていい方向に行くんじゃないか、って」

「………」

「だから少なくともあいつは律と別れたいなんて思ってないと思うけどね」

「………」

「なんて、何で俺がこんなこと言ってんだか」


煙を吐き出しながら、奏ちゃんは肩をすくめる。

それでも、私は首を横に降った。



「でも無理だよ。私自身が、無理なの」

「キョウも、俺も?」

「うん」

「それは俺たちに、“憎むべき川瀬社長”の血が流れてるから?」
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