狂想曲
私はもう何度、キョウの『ごめんな』を聞いただろう。

何度『ごめんな』と言わせただろう。


キョウがもっとひどい人ならよかったのに。



「まさか、2回も同じ言葉で振られるなんて思わなかった」


わざとらしく肩をすくめて見せるキョウに、私は、



「ありがとう。好きだったよ、キョウのこと。奏ちゃんと同じくらい、大好きだった」

「最後の最後で初めて言いやがって。しかも一言余計だし。ったく、ほんと、やな女だよなぁ」


力なく笑ったキョウは、私から目を逸らし、「行けよ」と吐き出すように絞り出す。


私は頷き、一歩、二歩、と足を引いて、キョウに背を向けた。

背を向けた途端に堪え切れなくなった涙が零れた。



やっぱりさよならとは言えなかった。



でも、だからって、いつか再会の約束をすることもできなかった。

私とキョウは、別れだけで精一杯だった。


振り向いて、また声を掛けてしまわないように、私は涙も拭わずに走る。




これからどうするかなんて考えてもいなくて、だけど、キョウと奏ちゃんが幸せになれるなら、私は自分自身のことなんてどうだってよかった。




空はただひたすらに青かった。

どこまでも、どこまでも、青く続いていた。


息を切らし、早足だった足を止め、振り向くが、街の雑踏の中にひとり佇む私は、もう本当にひとりなのだと思った。



それでも私は生きていかなければならない。

< 231 / 270 >

この作品をシェア

pagetop