狂想曲
「何? じゃあレオは、私を抱いて慰めてくれるとでも?」


おちゃらけて聞いたら、レオは本気で口元を引き攣らせ、「馬鹿なことを」と一蹴する。


自分から誘って拒否されたのは初めてだった。

だから本気で言ったわけでもないのに、私は少し腹が立って口を尖らせた。



「ぼくと律さんがエッチして、何になるの」

「………」

「大体、酔っ払ってそういう軽率なこと言ってたら、ほんとにヤラれちゃうよ。男を甘く見ないの。そもそも律さんは、そんなんで『強い人間』になれると思ってる?」


今度はお説教だ。

私は途端に居心地が悪くなり、レオの手からビールのグラスを奪い返して、それにちびちびと口をつけた。



「何もそんなこと、こんな時に言わなくてもいいじゃない」

「こんな時だから言ってるんでしょ。キョウさんも、奏さんも、あなたにそんな風になってほしくて別れたわけじゃないと思うけど」


辛辣な言葉は、さすがに私に突き刺さる。

この子はいつの間に、こんなにも大人びたことを言うようになったのか。


私はレオから目を逸らした。



「私、本当のことを言うと、少しだけ、百花と幸せそうなレオが憎いよ」

「ないものねだりだね、それは。所詮はただ、隣の芝生は青く見えるっていうだけさ」


思っていた返答ではなかったから、少し驚いた。

同じようにビールのグラスを傾けるレオに、



「何? 実際はそうでもないって?」

「そうでもないこともないけど、どうだろうね。幸せの基準って不明確だから」

「生意気なこと言っちゃって」

「失恋してヤケ酒飲んでるあなたにだけは、子供扱いされたくないけどね」

「うわー、今のは私に喧嘩売ったね」

「そっちこそ」


言い合って、怒った顔を突き合わせたけど、すぐに馬鹿馬鹿しくなって、私たちは同時にぷっと噴き出した。
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