狂想曲
「律さん! 着いたよ! ほら、起きて!」
揺すられて、まどろむ意識の中で薄目を開けると、タクシーは知らない場所でドアを開けていた。
どうやら私はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「ここ、どこ?」
「ぼくの家の前」
「やっぱりレオは私にエッチなことしようって魂胆だったのねー」
なのに、レオは無視して私の腕を引いた。
「そういう冗談はいいから、早く降りなよ」
引っ張られた私は半分転げるようにタクシーから降りた。
手も貸してくれないレオは、運転手にお金を押し付け、律儀にも「すいませんでした」と言う。
バタン、とドアが閉まり、タクシーは行ってしまった。
「立って」
「無理ー。腰打った。超痛い」
「馬鹿言わないの。歩けるでしょ。置いてくよ?」
私はむすっとして、ふらふらと立ち上がり、千鳥足でレオの後を追う。
レオが向かったのは、お世辞も言えないような古いアパート。
おまけに夜だからか、お化けが出そうな外観だった。
それでもレオが歩くから、私はそれに続き、手すりを支えに階段を上る。
「ここ、ぼくの部屋」
2階の一室。
レオは慣れた手つきで鍵を開ける。
「入っていいよ」
と、言われたが、さすがにどうしたものかと思ってしまう。
そこはまるで入居前のような、物ひとつないワンルームだったから。