狂想曲
レオは電気をつけてくれた。

そうしてくれたことでやっと、窓にあるカーテンと、いくつかの段ボール箱が置かれていることには気付いたけれど。



「さっき言ったでしょ。ぼく、ももちゃんとこの街を出る、って」

「あ……」

「もう、あらかた、引っ越しの準備は終わっててね。あとは新しい部屋を決めて、その荷物を運び出すだけなんだ」


レオと、百花は、本当にいなくなる。

今更になってそれがリアルになり、私は恐る恐る顔を向けた。


でも、やっぱりレオは何の迷いもない顔だ。



「今月末で解約すんの、ここ。あと2週間くらいだけど。だから律さん、ここ好きに使っていいよ」

「え?」

「ぼく、さっき電話して、ももちゃんのとこに泊めてもらうことにしたから。まぁ、どのみちぼく最近はもうほとんどここに帰らずにももちゃんとこで半同棲状態だったけど」

「……でも」

「いいの、いいの。ほんと何もないからただの寝るところって感じだし。でもさ、屋根と風呂とトイレがあれば、公園よりはマシでしょ?」


私は言葉が出なくなって、何度も頷いた。

酔っ払って馬鹿なことばかり言っていた自分を恥じ、レオに感謝する。



「困った時はお互い様だし、何よりあなたはぼくの“お姉ちゃん”だから。それにさ、ぼくだって少しは今回のことに関わってるつもりだしね」

「ありがとう、レオ」

「これ、鍵。部屋は掃除した後だから汚さないでね。で、早く住むところ見つかるといいね」


私はレオからこの部屋の鍵を受け取り、何度も、何度も、頷いた。


レオは笑う。

だから私ももう一度「ありがとう」と言って、笑った。



私はそこで改めて、部屋をぐるりと見渡した。



「レオってオシャレだから、今までこんなところに住んでたなんて思いもしなかった」
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