狂想曲
陽に焼けて色褪せた壁や畳。

柱も古傷だらけで、昭和の匂いがする部屋だった。


レオは今までここで、どんな風に暮らしていたのだろう。



「ぼくはね、“家出してきた保証人もいないただの子供”で、おまけに学生でもなければ仕事をしているわけでもなかったから。部屋探しにはほんと苦労したよ」

「………」

「だからこの部屋はね、ぼくが泣きながらお尻の穴をいじられて、それでやっと手にできたお金で借りたところなの」

「………」

「って言っても、やっぱり保証人もいなかったから、ほとんど大家さんのご厚意みたいなもんだったけど。それでもほんと嬉しかったなぁ、あの時は」


レオは懐かしさを噛み締めるように感嘆する。

私は何とも言えず、レオの頭を撫でた。


前よりまた少し背が伸びた、レオの頭を、くしゃくしゃにするように。



「ごめんね、レオ」

「どうして律さんが謝るのさ?」

「だって、うちのお母さんがレオのお父さんと再婚したからでしょ」

「あぁ、まぁ、それもあるけど。でも、ぼく、小さい頃から家を出たいとは思ったし、何より兄貴とはほんと仲が悪かったからね。だから遅いか早いかの問題ってだけだよ」


それが本当なのか、それとも私のためについてくれた嘘なのかは、わからない。

でも、私は、「ごめんね」と「ありがとう」を何度も言った。


レオは私に目をやった。



「でもさ、今は結果オーライだと思ってる。ぼくと律さんがこうして出会えて仲よくなれたこと。そして、そのおかげでももちゃんに会えたこと、全部」

「そうだね」

「だからぼくは律さんに感謝してるんだ。何度お礼を言っても足りないくらいだよ。本当にありがとう、律さん」


これからどうなるのかなんてわからないし、正直、不安の方が大きかった。

けれど、レオのおかげで私は、未来が少しだけ明るいものになる予感がした。


何よりも、レオと百花の未来が、晴れやかなものになりますように、と。

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