狂想曲
夜になり、眼下に広がる街はネオンの輝きを乱反射させていた。
波打つシーツの上で身をよじりながら私は、世界の果てを探していた。
「律はこの景色が好きか?」
「うん、好きだよ」
「じゃあ、誕生日には高層マンションの一番上の部屋をプレゼントしてやろう」
「そんなのいらないっていつも言ってるでしょ」
パパの隆起した欲望にうがたれながら、目を細めてみても、涙さえも流れやしない。
「私はお金があればそれでいいの」
奏ちゃんの望みは、私の望みだから。
押し殺してしまった自分の本心は、もうどこに行ったのかもわからない。
パパはべっとりと汗ばんだ肌で私を抱き締めながら、
「律はいつもシンプルだな。パパは律のそういうところが好きなんだ」
ふっと笑い、白濁した欲望を私の中に放った。
汚されていく。
だけどもその度に、どこか安堵にも似た気持ちにさせられる。
だってこの瞬間だけは、“本当の自分”が、水辺に顔を出した人魚のように呼吸できるから。
パパは未だ私にまたがったまま、肩で息をしていた。
「律はパパの言うことだけ聞いていなさい。そしたらパパも律も幸せになれる」
私の本当の幸せは、昔に戻ることだよ。
お父さんがいて、お母さんがいて、奏ちゃんと笑い合いながら慎ましやかな食卓を囲むこと。
それはどんなにお金を積もうとも、もう絶対に手に入れられないものだけど。
形のない、不明確なだけの定義で括られた“幸せ”が、かすんでいくね。