狂想曲
持ってきたバッグに、必要最低限のものを詰めた。
ひとつひとつに懐かしさが込み上げてきて手が止まり、捨てるか持って行くかで迷いまくったものもあった。
6畳しかない部屋なのに、結局、選別するまでに2時間も要してしまった。
奏ちゃんが淹れてくれたコーヒーは、すっかり冷めきっていた。
「終わった?」
「終わったー。超疲れたよ。これじゃあ、引っ越し作業なんて何日かかるのかって感じだよね」
私はダイニングテーブルに腰掛けて、うな垂れた。
奏ちゃんはそんな私を見て、苦笑する。
「キョウとはあれから結局、別れたって聞いたけど。新しい引っ越し先、決まったの?」
「あ、……うん」
キョウの話題はわざと出さないでいた。
でも、奏ちゃんからそれを振ってくるとは思わなくて、驚いてしまい、私は何を言えばいいかもわからず、関係ないことを早口に言った。
「っていうか、今友達の家に住み着いてるみたいな感じなんだけどさ。でも、今月中に解約するらしくて、時間なかったから、急いで見つけたところなんだけど」
「友達って、ももちゃん?」
「じゃなくて。百花のカレシでもあるんだけど。レオっていってね」
「何だ、レオか」
「え? 奏ちゃん、レオのこと知ってるの?!」
がばっと顔を上げると、奏ちゃんは私に頷いて見せながら、
「金髪のでしょ? 俺らの弟っていうか、母さんの再婚相手の息子の」
「何でそんなことまで知ってるの?」
私は怪訝に眉をひそめた。
でも奏ちゃんはあっけらかんとして言った。
「ちょっと前に、レオがいきなり俺の前に現れて。で、色々と話してくれたんだよ」