狂想曲
奏ちゃんの説明はそれだけだった。

でも、今までのレオのことを思えば、その行動は容易に想像ができた。


大方、奏ちゃんの前でも、あの通りの振る舞いだったのだろうし。



「変わった子だよね。何か、不思議な子」

「でも、いい子だよ」

「それはわかるけどさ。律の友達で、おまけに母さんの再婚相手の息子だなんて。世界は狭いっていうか、因果な関係っていうか」


奏ちゃんは、そう言いながら、何杯目かのコーヒーをすする。



だからトオルさんの喫茶店で会ったあの日、奏ちゃんは、お母さんが再婚したことを知っていたのか。

あいつめ、奏ちゃんと会ったなんてこと、私には一言も言わなかったくせに。


またレオに、してやられたなと、私は肩をすくめながら、



「じゃあ、奏ちゃんもお母さんに会ったの?」

「会ってないよ。会う必要ないし、会いたくもない」

「………」

「俺たちが本当に困ってる時には姿も現わさなかったくせに、今更、会ってどうすんの」

「………」

「それにさ、少しは俺たちを捨てたことに罪悪感を感じてもらわなきゃ、こっちは捨てられ損だもん」


私は会ったよ、とは、この状況では言えなかった。


奏ちゃんは強い意志を持って、お母さんと会うことを拒否した。

こういう人だったなと、今更思い出した。



「あ、えっと。それより私の新しい住所、教えとくよ」

「俺なんかに教えちゃってもいいの? 会いに行っちゃうかもよ?」

「“兄”としてなら、大歓迎」

「うわー。その返しはきついわー。半分、シャレになってない」

「自分だって」


笑ってから、私はバッグを漁って紙とペンを探した。

でも、こういう時に限って見つからない。
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