狂想曲
涙雨
息を切らし、街外れの、ホテル街の一角へと急ぐ。
503号室の前で、ひとつ呼吸を整え、私は、いつも通り、コンコン、コンコン、と、ノックした。
少し待つと、キィ、とドアが開き、顔を覗かせたパパは辺りを確認し、「入りなさい」と言った。
「レオ!」
間接照明だけの薄暗い室内で、床に倒れ込んだレオに駆け寄る。
朦朧としたような状態のレオを抱きかかえ、起こしてやると、体中に暴行を受けたような痕があった。
「レオ、大丈夫?!」
「……律、さん……」
うめきなのか息なのかわかないくらい、か細いレオの声。
レオはごほごほと咳き込みながら、肩で息をする。
私はてっぺんから雷が落ちたような怒りに震え、パパを睨みつけた。
「何もここまでしなくてもいいじゃない!」
「生半可に痛めつけたところで、逆に後の復讐心を煽るだけだ。ならば、先に牙をへし折ってやればもう、馬鹿な考えを起こそうなどとは思うまい」
「私もレオも、パパを裏切るようなことなんてしたことないよ!」
「本当にそう言えるのか?」
ふんっ、と鼻を鳴らしたパパは、
「だったら、律、そいつを殺せ」
「……え?」
「裏切っていないと言うなら、できるだろう? 所詮はレオなど、ただの肉便器だ。代わりはいくらでもいる」
「何言ってんの?」
「では、律もレオと同じようになりたいと?」
パパは本気だ。
痛めつけられたレオを見た以上、私が何を言ったところで意味はないだろう。
けれど、私に、レオを殺せって?