狂想曲
「飲み物、買ってくるから。ちょっとだけ待ってな」

「……奏ちゃん」

「うん?」

「私のことも、置いていっていいんだよ?」

「何言ってんの」


乾いた血のついた、奏ちゃんの手に触れられる。


陽が落ちて、次第に辺りは薄暗くなっていく。

ゴロゴロと、雷鳴がとどろき始めていた。



「律を助けるためにしたことなのに、肝心の律を置いてったら何の意味もないでしょ」

「でも、私のために奏ちゃんは、人を殺した」

「律のためじゃなく、自分のためだよ」


奏ちゃんは言い切った。



「歪んだ正義感っていうのかな。たとえそれが世間的には間違ってることでも、俺が許せないと思ったからしたことだ」

「………」

「それに、2回目だから慣れたもんさ」


悲しくなった。

奏ちゃんが、奏ちゃんの所為じゃない罪を重ねることが。


私が、自分で過去と決着をつけると決めたはずなのに、なのに結局は、一番最悪な、こんなことになってしまった。



奏ちゃんは私の頭を昔と同じように撫でながら、



「飲み物買ってくるから」


もう一度言い、きびすを返す。


私はひとりっきりで膝を抱えた。

パパはどうなったのだろう、と、今更になって思ってしまう。



私は涙ぐみながら、声を殺して泣いた。

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